「偽装技人国」とは?

「偽装技人国」とは?

我が国で合法的に就労できる外国人は「就労ビザ」を持っている、と多くの方が認識していると思われますが、厳密には正しくありません。正確には、外国人がどのような業種や職種で就労できるかを定めているのは「在留資格」です(これは行政書士の先生方や監理団体、登録支援機関などプロの責任が重いですね!プロの皆さん、面倒がらずに顧客に正しく説明しましょうよ!)。就労できる外国人は必ず在留カードを持っています。在留カードに記載されている在留資格を確認すれば、その外国人がどのような仕事に従事できるかが分かります。

就労できる在留資格はいくつかありますが、「日系人」等身分によって入管庁から与えられている在留資格を除き、「日本人と同じようにどんな仕事でもできる」という在留資格はありません。どのような仕事ができるか、細かく決められています。

その中で代表的な在留資格が「技術・人文知識・国際業務(技人国)」です。ある程度高度な技術者、デザイナーや通訳などです。技術や知識の水準は、技能実習生・特定技能1号者より高く、特定技能2号者と同じかそれ以上であるとされています(法務省出入国管理基本計画)。少し特殊な仕事と言って良さそうです。しかし、2024年6月末時点政府公式統計で394,295人。これは、農業・漁業・建設業・食品製造業・工業製品製造業・自動車整備業・ホテルや介護など実に90以上の職種で受入れが認められている技能実習生(同時点425,714人)とほぼ変わらない人数で、14分野(技能実習生と少し違う視点で許可が与えられています)で受入れができる特定技能者(同時点251,747人)よりも多くなっています。

技術者・デザイナー・通訳と、かなり限られた仕事内容しか許可されていないはずの外国人が、こんなにも多い―。ここには、「国内外のブローカーが介在するものを含め、表面上は正規の在留資格を有するものの、その実態は在留資格に応じた活動を行うことなく、専ら単純労働 に従事するなど、偽装滞在して就労する事案」である不法就労者がいるものとして、撲滅運動をする、と政府は宣言しています(不法就労等外国人対策の推進(改訂)。警察庁・法務省・出入国在留管理庁・厚生労働省。2024年5月16日)

この疑いがある外国人就労者を、わたしは「偽装技人国」と呼んでいます。

厚生労働省「外国人労働者の受入れの政府方針等について」P.17より
(左側矢印は著者追記)

ついに逮捕者!

在留資格によって許可されている仕事内容と、実際に従事する内容が少しくらい違うからと言って、そんなに大きな問題ではないのではないかと思う方がいるかも知れません。しかし、2024年12月27日、大阪府警がある会社を摘発しました。

報道によるとこの会社には30人のベトナム人労働者がいました。在留資格は「技人国」で、業務内容は通訳です。しかし、29人の実際の業務内容は警備員、残る1人は採用担当者(29人の通訳もしていたと思われます)でした。雇用主である代表者は逮捕。採用担当者も逮捕。29人の処分はまだ発表されていませんが、在留資格取消しはまぬかれないでしょう。さらに、29人の在留資格申請を担当したとみられる行政書士の男性が書類送検されました。大事件と言ってよいでしょう。

先にご紹介しました「不法就労等外国人対策の推進(改訂)」によると、在留資格で許可された内容と違う仕事に従事させた雇用主やあっせんしたブローカーは、「不法就労助長罪(拘禁刑3年以下又は罰金300万円以下。2027年より5年以下又は500万円以下へと厳罰化)」に該当します。現在でも重い罪ですが、2027年6月21日までに施行される改正入管法により、さらに厳罰化されることが確定しています。

さらに言いますともし、実際の仕事内容と異なる事を知った上で在留資格を取得するための書類を作成して申請したのであれば、文書偽造の罪に問われるでしょう。今回の事件で書類送検された行政書士の男性がどのような罪に問われるのか、大阪府警の捜査に注目したいと思います。

 

「偽装技人国」だとしても、一生懸命真面目に働いているし、雇用主はきちんと給与を支払っていれば問題ないのではないか、なぜそれほど厳しい処罰の対象となるのか分からないという意見の方もおられるかも知れません。しかし、厳罰の対象となるだけの、いくつもの理由があるのです。ここでは、以下に3点についてご紹介したいと思います。

 

①日常的にチェックを受ける制度が無い
「技人国」やその他就労できる在留資格は、高学歴で一定水準以上の優秀な外国人に与えられる在留資格です。そのため、問題は起きにくいだろうということで、適正な雇用状態が維持されているかどうかのチェック機関や、問題を未然に防ぐための指導機関が存在しません。例えば技能実習制度は、入管庁と厚労省の委託機関であるOTIT(外国人技能実習機構)が調査権を持っており、3年に1度、全ての受入れ企業に調査訪問します。
「技人国」やその他就労できる在留資格の場合、在留資格さえ取得してしまえば、あとは労災事故や労働争議などの問題が表面化しない限り、どこからも調査や指導を受けずに済みますので、問題が発見されにくくなっていると言えるのです。

②あっせんのための免許制度がない
「技人国」やその他就労できる在留資格を持つ外国人労働者の紹介・あっせんは、日本人労働者を紹介するための「有料職業紹介」の免許だけでできてしまいます。在留資格に詳しいか、入管法に詳しいか、外国人労働者を紹介する際にどのようなことに気をつけないといけないか等を定めた制度がないため、ブローカー行為が横行していると言われています。40年の歴史があり、国会、官僚、政府が検討を重ねて出来上がっている技能実習制度では、あっせんや紹介は監理団体にしかできないというルールがあり、しかも監理団体は商工会議所や公益法人、事業協同組合でないとならないとされていますので、簡単に取れる免許ではありません。
免許制度があるという事は、当たり前のことですが、ルール違反者には罰が待っているということです。ないという事は、悪いことをしてもバレなければ逃げ得だということですね。許される事ではないと思います。

③外国人労働者が弱い立場になる
適切な雇用状態が維持されているかどうかチェックされることがない、免許制度がないために悪質なあっせん業者によって働き口を紹介される恐れがある、この二点だけでも、外国人労働者が弱い立場に置かれてしまう可能性があることがお分かりでしょう。
きちんとした制度がないため、高額な手数料を取られてしまっている外国人労働者もいますし、悪質なあっせん業者が犯罪グループである場合に、外国人労働者が犯罪に巻き込まれているケースがあるかも知れません。

きちんとした制度がないため、高額な手数料を取られてしまっている外国人労働者もいますし、悪質なあっせん業者が犯罪グループである場合に、外国人労働者が犯罪に巻き込まれているケースがあるかも知れません。

実際の仕事内容と許可内容が違う「偽装技人国」は犯罪だ!とわたしが声を大にして注意喚起したい気持ちが、少しはお分かりいただけましたでしょうか。

 

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